会社の研修を終わってタクシーで帰る道すがら、
運転手がつぶやく「20年なんてわけないでね」。
深夜でもないしロボットタクシーでもないし潜伏捜査中の覆面警官でもないので
「疲れてますね」と気をつかわれて幼少時の打ち明け話らしいことをしたわけでもない。
よくよく聞けば苦しいことも(楽しいことも同じだが)矢のように過ぎていく、と
いうのだった。そう話す運転手をミラー越しに覗くと、30歳くらいに見える。
不思議なことを言うと思いながら道場へ向かう。
二時間の稽古中ずっと、といっても十分休息をとりながら
二人で動き続けたのだが、帰路、運転手の言葉を思い出したのだった。
後輩はとても若く、伸び盛りである。礼儀正しいし、研究熱心で、
稽古したことをどんどん吸収していく。
でも自分は、もう停止しているのだろうか。
タクシーの運転手の、助手席前にあった身分証明の年齢は、
68歳だった。
30歳に見えたのに。
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