もう一か月ほど前の話になるけれど、
先月下旬、金曜の朝は強い雨が降っていた。
僕が通勤で使うJRの駅はあと百メートルくらい歩いた先である。
突然、僕の目の前で40代くらいの女性が、驚いたように後ろを振りかえった。
体のひねりが速かったので、僕も目線をあげてしまう。
その女性が確かめようとした対象は、当然ながら見知らぬ僕ではなかった。
女性の視線が動くのを追って僕もその視線の先を見る。
走りだした青年だったのだ。一瞬、しゃがんだのが僕の視界の隅にも見えていた。
何かが路上に落ちていて、
青年が拾ったようだと合点した。
その青年はほぼ毎日、通勤経路が同じなのでみかけていた。
髪が茶色で、横顔には険があった。
女性は立ち止まっていたがしばらくして進行方向へ歩きはじめた。
僕として今や関心を占めているのは青年のほうである。
雨は変わらず強く降っていた。
青年は傘を閉じて片手で握ると猛然と走りだしたのに驚かせられる。
落とし主を追っているようだとわかった。
因縁をつけた/つけられた、のような言葉が頭に浮かんだ。
けんかになるならこちらも黙ってみていられない、と思った。
青年は速度を上げて、禿頭の男性を追いかける。
後ろをちょっと振りかえった男性も走りだした。
青年の走る方向には男性しかしなかった。追われていると思ったのも無理もないと思う。
僕も見届けたくて近づくべく走った。
ようやく駅前で青年は追いついた。男性は振り向いた。
一瞬、ボクシングや総合格闘技の計量で接触せんばかりに近づいて
威嚇しあう光景を想像して、僕は足を速める。
青年は男性に向かって片手を差しだした。手には財布があった。
男性のほうの反応はというと、短い挨拶程度だったように思う。
たいせつなものを届けてくれた割には感謝が薄い気がした。
でも、見ていた僕は青年の行動に感服した。
相手が大仰な感謝などしなくてもいいのだ、
善行と思われなくてもいいのだという青年の態度を感じとった。
〈右手のしていることを左手に知らせるな〉
そうだ。誰かが見ているのだから。
「俺はこんなにすごい人間だ、活躍している、すばらしいんだ賛美せよ」と
声高に訴えたらたぶん、
見ている〈誰か〉は
「おまえは賞賛されて十分に報酬を得たのだからもういいだろう」と言われるに違いないのだから。
僕の住んでいる近隣には、世界に名だたる企業がある。
KAWAI、YAMAHA、SUZUKI、Roland、Hamamatsu Photonics……
僕たちは、誰かが作ったものを批評したり、利用したりするのではなくて、
自分で作っていきたいのだと改めて決意を固める。
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明日7/15(月)は祝日「海の日」のため
静岡西道場の稽古はお休み。
次は7/19(金)19:00〜21:00。
これからを生きるひとたちとともに生きていく。
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