もうすぐ瓦解する

 住んでいるアパートの二階から望む風景には、

廃校になった小学校の四階建てがある。

 校舎には朝も夜も人の姿は無論ないけれど、

体育館は利用されてきた。

 春には浜松まつりのラッパの練習をする音が聞こえたし、

バスケットボールの練習で

コーチが子どもたちに浴びせる罵声がたびたび聞こえた。

 これはちょっといやだった。

 スポーツは、

いばりんぼうのコーチのストレス発散のためにあるわけではない。

 閉じた系の中では、

横柄な態度をするひとや、

他人をにらみつけて従わせようとしたり、

あいさつをしても無視したりするようなひとたちが力をつけてしまう。

 一時的には

「あのひとはこわい」「でもしごとはできる」「しぶい」「かっこいい」

などと言われて気を遣ってもらえるかもしれない。

 けれど〈休日〉を迎えたら、

彼らの威光は消えてしまう。その間、たったの数十年である。


 空道は総合格闘技で、顔も含めて全身を殴り蹴り、

組みついたら投げて、首への絞め技や、腕や足への関節技で決着がつく。

 ぼくが格闘技をしてきて思うのは、

先輩を敬い、同輩とべたべたし、後輩に優しくできるのは、

実際に殴りあい投げあい腕を痛がらせたりして、

けんかの実力がわかっているからだということだ。

 今、とても強いとしても、のちには必ず勢いのある後輩が育って、

自分は太刀打ちできなくなる。

 でも目標にした先輩への敬意は消えないし、

逆に後輩からも、老いた自分に対して侮蔑の声をかけられた経験はない。

 拳を交えたもの同士は、ずっと尊敬しあっている。

 ビジネスの場所で巧言令色で他人をほんろうしたり、

立場の威光を借りて部下や上司さえ脅すひとたちが一番学びたいのは、

こけおどしやはったりのしかただろう。

 けれど威勢のいいだけの人間はいつか、

自分がかつてしてしまった虚飾に足を取られるときがくるかもしれない。


 四階建ての建物が今年度中に解体されるということを、

ふだん歩いている廃校の前の道から見えていた

校庭の木がすべて切り倒されていたのを見て初めて知った。

 瓦解する瞬間は、おそらく平日の昼間だろうから

見ることはできないと思う。

 でもその日の夜、ぼくは知るのだ。

 いやだと思ったものは、実際にはぼくの分身だったことに。


 毎日、自分の嫌な点ばかりがめについて

かいぜんしようとおもうけれどなにもできずに

計算ばかりして一日がおわる。

 ぼくはほんとうに、いやなにんげんです。

 廃校の解体といっしょに、いやなところが潰えてしまえばいいのに。

 汗といっしょに神経繊維がながれでて、

くたくたになってなにも感じないようになればいいのに。

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 静岡西の稽古は

月曜、金曜の19時から21時です。

 

(社)全日本空道連盟 大道塾静岡西道場

(社)全日本空道連盟 大道塾静岡西道場は静岡駅近くで稽古をしています。 空道は総合格闘技であり、礼節を重んじる武道です。 責任者・門井研は、大学入学から現在まで35年のキャリアがあります。 静岡県空道協会と静岡市空道協会に所属。 空道は、2026年青森県国民スポーツ大会のデモ競技となりました。

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