明日8/11(金・祝)、静岡西同好会の稽古はお休みです。
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米澤穂信編「世界堂書店」を読む。
この中でシュテファン・ツヴァイクというオーストリアの作家が書いた
「昔の借りを返す話」に心を動かされた。
タイトルがよくないが、内容とかけ離れてもいない。
老齢期にさしかかった女性が、医師である夫の転勤に伴ってブラジルへ渡るが、
家族が次々と病気にかかったため看病に追われ、今度は彼女の方が疲れてしまった。
見かねた夫から転地療養を勧められ、
彼女は田舎の療養所で休養をとることにした。
足を踏みいれた田舎町のレストランで、
彼女は思いがけない邂逅をする。
彼女が再会したのは、女学生時代に夢中になっていた舞台俳優だったのだ。
けれどかつて人気を誇った俳優は、不倫のスキャンダルの責任をとって
劇団から追放されることになり、今は落ちぶれていた。
彼女は当時十六歳のときを思いだす。俳優の最終公演へ駆けつけたことを。
雲の上の人だと分かっていたけれど、
最後にただ一言でもいいから、
こんなにもあなたの演技に熱中しているファンがいるのだとつげたかったのだ。
幸いにも楽屋に入ることを許されて、当時若い彼女は俳優と二人きりになれた。
しかし話しているうちに、熱狂するあまり彼女は俳優に抱きついてしまった。
そのとき三十七歳の俳優は、彼女の気持ちを利用して、
遊びとか過ちなどという言葉に変換した行動をすることもできただろう、
けれど彼は彼女の気持ちも、体も辱めることはしなかったのだ。
そのことをずっと彼女は覚えていて、常に尊敬してきた。
でも今は田舎町で地元の人たちから、
貧しい身なりを馬鹿にされているのだ。
だから昔、俳優が彼女によくしてくれた恩返しをするように、
彼女はそのレストランで、元俳優と同席して、大声で称えるのだ、
かつて彼がどれだけすばらしい演技をしていたのかを。
彼のことを無視したり小馬鹿にしていた客たちは一目を置く。
体を震わせながらも背筋を伸ばして立ち上がった彼のことを。
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ぼくの心に常に呼びかけてくれる先人がいる。
示してくれるものごとや、言葉が、そのときは何にもわからなくても、
あるとき「こういうことだったのか」とわかるときが訪れる。
お金をいくら出しても、誰かに取り入っても
得難い経験である。
そんなに大事なことをどうしてぼくなんかに、教えてくれるのか
とても不思議である。
発見した驚きが動力につなげていけるように
まだ努力したいと思っています。
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