英雄、と呼ばれることは夢想だにしていない本当の名前を羊毛という男が、
せめて「ようもう」ではなく「ウール」と呼んでもらいたいと常々考えているのに、
結局一日、失業中だからと閑居していると、涙が出てくるのである。
もしかしたらその涙は、羊毛が英雄と呼ばれるきっかけになるかもしれないと、
唐突にあばら屋の外で蛙が鳴き出す。
英雄はひとを慰めたり鼓舞するために存在するとみなは言うが、
彼だけは、そうではなく、いつもさめざめと泣いたりする情けない男なので、
ふと目の前に、英雄の親分が姿を現すと、警察に通報、ではなく、祖父に電話をかけて
知らせたくなる。
でも祖父は一向に電話に出ない、もう三年前に亡くなってしまっていたのだから。
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空道の道を行けば、ひょっとしたら、
自分も、英雄とまではいかないし、人助けもあまりできないかもしれないが、
少なくとも楽しい時間を過ごしていけるのではないかと思う。
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