かつて、若いころ僕も、
『今この瞬間、誰も僕を知らない外国へテレポートするか、
誰からも罰せられない八十歳になりたい』と
考えたときがあった。
けれどテレポートもタイムトリップもできなかった。
今日誕生日を迎えた僕は母からメールをもらう。
いつも酔っ払って電話をしてくるくせに
今日に限ってメールである。
≪あっしがこの日あんたを産んだなんて
不思議な気持ちになる≫
その気持ちがわからなくて
贈られた胡蝶蘭をみながらひとり晩酌する。
≪みんな幸福になればいいだに≫
毎年胡蝶蘭をくれるし、
自分でも観葉植物を買うので
部屋はそのうち、ジャングルみたいになるだろう。
シャーリイ・ジャクスンの語る話の中に、
絶対に好意を持たないと思っていたはずの、
つまらない男性につまずいた少女が
独白するくだりがあった。
≪なるべく早く、途方もない速さで、
なんとかして六十九歳に、八十四歳になり、
記憶をなくし……(中略)
記憶は——おお神様、そうなりますように——
時間によって薄れ、和らいでしまっている≫
(シャーリイ・ジャクスン「処刑人」市田泉訳 創元推理文庫)
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毎週必ず10km走る。
まだ寒さを感じるものの、花が咲き始めていた。
時を超えることなどもう、考えずに、
緩慢なほうがむしろいいからこれからも楽しい空道を。
日中、珍しくラジオを聴いていたらaikoがパーソナリティをしており
ニューアルバムを聴かせてくれた。
Apple Musicで夜聴くアルバム。
上手にならないけれど、いえ正直失敗した、
でも食べられればいいと思う晩ご飯。
ラジオで聞こえたニワトリの鳴き声が
頭の中で漢字になる。
≪虚仮、虚仮、ここ結構虚仮〜≫
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